オーディエンスの心得

私にとってカラオケは、歌う場所ではなく聴く場所だ。

人の歌を聴き、リズムに合わせて体を揺らし、合いの手をいれる。それだけで楽しい。むしろそれ以上のことはしたくない。気分が上がってくれば一緒に曲を口ずさむこともあるが、自らマイクを持つことはない。

大抵「変わってる」とか、「損してる」などと言われる。愉快に思わない人もいるだろう。しかし、人前で歌を歌うというのはかなりの勇気が必要だ。キーを外したら変な声が出るし、テンポがズレると歌詞に追いつけなくなるし、選曲を誤ると盛り上がりに水を差す。悲しいことに歌が下手な私にとって、それらのハードルはあまりにも高い。

それに、人を歌を聴いて楽しむ時間だって十分に有意義なものだ。友人達のいつもとは違った表情が見られるし、趣味も知れる。自分の好きな曲が歌われると会話のきっかけにもなる。自分の知らなかった曲を聴いて、その曲を好きになることも少なくない。さらに、歌が上手い友人の歌を聴くのは心地良い。

こうしてメリットを並べると、カラオケとは歌を歌うよりむしろ聴く場所なのではないかと思えてくる。いや、流石に言い過ぎた。歌を歌うのが得意、もしくは好きな人にとっては、カラオケで聴くに徹するなどお金と時間の無駄であろう。というか、そうでなくては困る。全員が聴き手に回ってしまっては、私のカラオケの楽しみ方が成立しなくなってしまう。

しかし、先述の通り、カラオケに来ておきながら歌おうとしない人間がいると興ざめに思われる可能性がある。せっかく遊んでいるのにそういった不快感を与えては申し訳ない。そこで、私は人が歌っている時は真剣に聴き、盛り上げ役となれるように心がけている。とはいえ、人の歌を聴くことが好きな私にとってそれは心がけずとも楽しんでやっていることではあるのだが。