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独りよがりで良いじゃない

あいつの正体

動く点Pってなんなんだ。

 

初めて出会ったのはおそらく中学生の時だ。

あいつは当たり前のような顔をして数学のテキストに現れた。

 

理解できなかった。 

思わず父に「この動く点Pって何のことなの?」と聞いた 。

何かを模したものであり、便宜上点Pと呼ばれているのかと思ったのだ。

父は「何のことってなに!?」と面食らっていたが。

 

 

正体も存在意義もよく分からない、なぜか動く点。

この当惑を上手く説明することは難しいが、とにかく理解し難く受け入れ難い存在だった。

 

数学の文章問題と言えば、池の周りを歩き続ける兄弟や中途半端な値段のりんご、信号も坂道もお構い無しに一定速度で学校へ向かう少年など、ツッコミどころ満載とはいえ何かしらの意義を与えられた事物が登場するのがお決まりだ。

 

それなのに何故、点Pだけが、なんの設定も与えてもらえない単なる動く点なのか。

 

動かなければまだ良い。日常生活でも動かない点にはよく出会う。

 

しかし、動くのだ。角から角へ、行きつ戻りつ。

 

生き物なのか機械なのか、動く目的はなんなのか手段はなんなのか。

そんなことが気になって問題を解くどころではなかった。

 

いや、それは流石に数学嫌いの言い訳だが。

 

しかしカエルでも車でも何でもいいから何かしらの設定を与えてあげても良かったのではないか。

 

結局当時は、あいつに勝手に設定を付けることで事なきを得ていた。

だいたい忍者だった。